猫の胸腺腫
上のレントゲン写真は、猫ちゃんの胸部になります。
赤線で囲ってある部分が腫瘍です。
本来、肺がある部分は黒く映るのですが、正常の子の半分ぐらいしか黒い部分がありません。
これは腫瘍の存在と、乳び胸(脂肪を含んだ水が胸の中へ溜まってしまう病態)のせいで、
肺が大きく膨らまないためです。この状態では上手く呼吸が出来ず、非常に苦しいです。
この腫瘍は各種検査をすることによって『胸腺腫』と診断されました。
胸腺とは、心臓よりやや頭側に存在する臓器で、幼若な犬猫の体の免疫を担う重要な働きをしています。
成犬/成猫へと成長するに連れて徐々に萎縮し、脂肪へと置き換わりその働きを終えます。
胸腺腫とは、その残存した細胞が腫瘍化したものです。
症状としては、呼吸困難、咳(腫瘍による圧迫)、頭や首、前足のむくみ(血管を圧迫する事による)などがあります。また、高カルシウム血症や、重症筋無力症といった難しい病気も腫瘍発生に伴い発症する事があります。
ただし、手術をすることが出来れば、かなり良好な経過をたどる事が出来ると一般的には言われています。
ある文献では、中央生存期間は、手術のみでも犬で790日、猫で1825日と言われています。
この子は呼吸が苦しそうという主訴でご来院され、レントゲン検査を行った結果、心臓の頭側にしこりがありました。
ただ、すでに病状は進行しており腫瘍の存在により、激しい乳び胸(脂肪を含んだ水が胸の中へ溜まってしまう病態)になっていました。
超音波での様子や超音波ガイド下での細胞診の結果、胸腺腫が非常に強く疑われました。
この苦しい状況を改善させ、より長期間の生存を可能にするため手術を行いました。
以下手術画像がありますので、苦手な方はご注意下さい。
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上の図は実際の手術の画像です。
最初に胸に溜まっていた液体(乳び)を約400ml抜去してから、
左側の肋骨と肋骨の間から切開を行い、開胸しました。
すると、本来胸膜という薄い膜を通して心臓や血管、神経などが見えるはずが、
乳びがあるせいで、胸膜に炎症を起こし胸膜炎となり、胸膜が厚く不透明になっていました。
そのせいで奥にある臓器が全くわからなくなっていました。
腫瘍があるであろう場所の端っこから慎重に胸膜を破り腫瘍のみを取り除いていきます。
見えにくくなっている重要な動脈や神経には特に気をつけました。
ある程度胸膜を切除していくと、奥に丸く膜に包まれた腫瘍が現れてきました。
血管や神経を傷つけないように慎重に摘出していきます。
こちらが取り除いた後の胸の中です。
青い線で囲っているところが腫瘍があった場所で、
黒い線で囲っているところが心臓になります。
腫瘍は心臓の外側の膜にもくっつくように存在していました。
摘出した腫瘍です。病理検査の診断も『胸腺腫』でした。
この子は、手術後2日間はICUにいましたが、
その後普通の生活を取り戻し、元気に退院しました。
こちらは手術から3年経ったレントゲン写真です。
一番最初のレントゲン写真と比べてみても明らかに胸の部分が黒いですね!
しっかりと肺が膨らんでいる事がわかります。
3年前に開胸手術という大きな手術を行った猫ちゃんですが、
今も何不自由なく元気に過ごしています。