犬の甲状腺癌
高齢のビーグル犬では身体検査に慎重な頸部触診を加えましょう。
と、いうぐらいにビーグルさんに多い気がします、甲状腺癌です。
この子はご家族が首のしこりに気づき、ご来院されました。
触診上では頚部皮膚の下に約4cm大の硬めのしこりがあり、
可動性が高く(あまり腫瘍が動かないようなものだと、
周囲の組織に浸潤している可能性が高い)
それほど浸潤している様子はありませんでした。
細胞診検査では血液成分を背景に、
裸核様細胞が散見され、ロゼット様構造も確認されました。
甲状腺癌が第1に疑われる所見でした。
また、胸部レントゲン検査や腹部超音波検査などによる
がん進行度のチェックでは、明らかな転移は認められず、
WHOによる分類ではT1a N0 M0 stageⅡ でした。
初期ではないものの、進行しているがんでもないという状況です。
全身状態においても、明らかな異常は認められませんでした。
以上の事から外科療法(手術)を第1治療法としながら、
様々な治療法をご説明し、その結果、手術をご選択いただきました。
以下手術画像がありますので、苦手な方はご注意下さい。
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手術時、仰向け状態で画面手前が右側、画面奥側が左側、画面左側が頭側、画面右側が尾側になります。
皮膚を切開し、筋層を走行に合わせて開き、皮膜に包まれた甲状腺癌を露出します。
術後の事も考え、皮膚切開は必要最低限までとしました。
甲状腺癌をつかみながら、周囲重要組織(反回神経・迷走交感神経幹・甲状腺動脈・食道・気管・総頚動脈・外頚静脈・内頚静脈など)
に注意しながら、剥離を続けていきます。
無事に甲状腺癌を摘出し、周囲正常組織の確認をしています。
このあと、十分な洗浄を行い、縫合を行っていきます。
縫い終わりです。
「ドレーン」と呼ばれる術創から液体を外へ排出するものをつけています。
(画面左側のもの)
手術後の合併症として、
出血・食道拡張症・喉頭麻痺・ホルネル症候群・副甲状腺機能低下症・甲状腺機能低下症
などが挙げられますが、
幸いにもこの子はどれも起こることなく順調に2週間後、抜糸を行いました。
摘出した甲状腺癌です。
病理検査では、完全に摘出できているとの事でした。
遠隔転移を制御する抗がん剤等も治療のオプションとしてご提案しましたが、
ご家族はこのまま様子を見ていくことを選択されました。
現在、術後から約2年半経ちますが、
再発・遠隔転移は認められず、普通の生活を送っています。
この子はとても明るい子で、手術の翌日にはスタッフにしっぽを振って、
元気にご飯も食べてくれました。
今も定期検診は行っていますが、元気な姿を見せてくれています。